HF10とは
HF10は弱毒化した単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは「腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)」と呼ばれ、このウイルスによる治療法は「がんウイルス療法」と呼ばれています。多くの腫瘍溶解性ウイルスは遺伝子の組み換えや外来遺伝子の挿入を行っていますが、HF10は人工的遺伝子操作を一切行っていない自然発生型のウイルスです。

単純ヘルペスウイルスは、大多数の人が成人するまでに感染する身近なウイルスであり、宿主であるヒトの細胞と複雑な相互作用をすることから、遺伝子およびタンパクレベルにおけるヘルペスに対する研究が新薬の創製につながる、と考えられます。また、ヘルペスは遺伝子ベクターとして利用される等、応用範囲の広いウイルスでもあります。
名古屋大学の西山幸廣教授が、弱毒性かつ副作用が少ない単純ヘルペスウイルス変異株(HF10)を発見され、当社が商用化の権利を獲得しました。現在、当社では、頭頸部がんを対象とした臨床試験の準備を進めております。
なお、これまでに名古屋大学病院では乳がん・頭頸部がん・膵がんの患者さんを対象とした臨床研究が実施されており、HF10の安全性と良好な抗腫瘍効果が報告されています。
また、動物実験からHF10の投与により宿主免疫が活性化されることも報告されています。
どのような病気の治療薬になるのか?
抗がん剤の開発では、Unmet Needsの高いがん種で最初の臨床開発・承認取得を進め、適応がん種の拡大を図る方法が一般的に採用されます。HF10の開発においても同様の開発戦略を採用します。HF10の対象がん種としては、頭頸部がんの他にもメラノーマ、膀胱がん、乳がん等が有望です。これらのがん種では、Quality of Lifeの観点から、たとえ局所がんであっても広範囲の腫瘍の完全摘出が困難あるいは適切でない場合が少なからずあり、HF10のような新しい治療法に対するUnmet Needsが高いと考えられます。更に、現在のところ必ずしも満足する治療法が確立されていない腹膜播種への治療の可能性も検討していきます。HF10の価値の最大化を図るためにも、頭頸部がんでの臨床試験の結果を見ながら、次に続く開発がん種の選択・臨床試験計画の作成を進めてまいります。
開発の経緯および現状
腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)を用いたがん治療薬の開発は、1950年代より取り組まれており、特に米国では、豊富な経験とデータが蓄積されております。したがって、HF10の最初の臨床試験は米国で実施することと致しました。米国で臨床試験を開始するにあたり、2006年初めより米国規制当局(FDA)と事前相談を行い、開発計画の妥当性を確認しながら、GMP基準 に適合した製剤の製造、マウスを用いた非臨床安全性試験や薬効薬理試験を実施してまいりました。そして、これらを経て、現在、FDAへの治験申請(IND申請)および臨床試験開始に向けての準備を進めております。
今後の取組み(予定)
頭頸部がん患者を対象に、2007年度第1四半期に被験者への投与を開始出来るよう、最善を尽くしています。最初は単回投与での安全性および忍容性の評価を主目的としますが有効性の評価も実施します。次に、単回投与で安全性が確認された投与量を用いて連続投与での安全性および有効性を評価する試験を実施する予定でいます。
また、この米国での臨床試験をもとに、日本での臨床試験についても検討を進めてまいります。 |
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【単純ヘルペス
ウイルス1型】
単純ヘルペスウイルスには2つの型があり、1型(HSV-1)は唇にできる口唇ヘルペス(口内炎)や、眼の角膜にできるびらん(単純ヘルペス角膜炎)の原因となるウイルスで、2型(HSV-2)は陰部ヘルペスの原因となります。多くは症状をあらわすことなく体内に潜み、ストレス・過労・病気などの要因で体力が低下すると症状をあらわします。症状はピリピリとした痛みを伴う水ぶくれ(水疱)で、通常7〜10日で治ります。
【腫瘍溶解性ウイルス】
正常細胞内では増殖できず、標的とするがん細胞内で特異的に増殖可能な制限増殖型ウイルスのこと。がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスが感染すると、細胞内で増殖して直接的にがん細胞を破壊・死滅させるのみならず、その際に放出された腫瘍溶解性ウイルスは周辺のがん細胞にも新たに感染し、腫瘍全体を縮小させることが期待される。
【宿主】
寄生生物の寄生対象となる生物のこと。
【遺伝子ベクター】
目的遺伝子を宿主細胞に導入するときに使われる運搬体をベクターと呼ぶ。目的遺伝子を組み込んだ組換えウイルスは、ベクターとして遺伝子治療などでしばしば利用される。 |